レコード・レーベルの黄金期 ~東独ETERNA編~

 『ヴィンテージ・アナログの世界』
レコード・レーベルの黄金期 ~東独ETERNA編~
(BIOCITY第61号掲載)

レコード・レーベルを紹介する本シリーズ、
第一弾はドイツのエテルナ(ETERNA)である。
筆者の会社名「エテルナトレーディング」もこのレーベルに由来している。

エテルナはドイツがまだ東西に分断されていた時代に存在していた
東ドイツの国営レーベルである。
SP時代から生産を始めたが、結局ベルリンの壁が崩壊した1989年、
同社は沈み行く大型客船の如くとなり、
社員も散り散り、資料を持って何処かへ雲隠れ。
倉庫に残った大量の在庫はゴミ箱に捨てられたという。

かつて東ドイツでは、統制経済の下で生産されたレコードは
閉鎖社会に生きる人々の重要な娯楽であった。
レコードの価格を決めるのは政府であり、
崩壊直前まで一枚12.10オストマルク、
おそらくコーヒー二杯分程度と非常に安価であった。
東欧ドイツの特殊な社会状況は果たして、
音楽芸術に何をもたらしたのであろうか。

一つ言えることは、
「クラシック音楽の録音」にもたらした恩恵は計り知れないということだ。

それはある意味で商業主義とは無縁の環境で育まれた純度の高さであり、
演奏レベルは同時代の西側の水準をはるかに超えている。
約10年時代が遅れた分、芸術的良心が1980年代まで保たれていたのである。

ステレオ録音の発売も10年遅れた。
放送局は日本で言えばNHKしか存在せず、
出演できるのは一流の(政府を批判しない)芸術家だけであった。

もう一つエテルナが突出していたのは卓越した録音技術である。
シュトリューベン、リヒターら超一流の音響技師が世代交代することなく、
ほとんど全ての録音を監修し、レコードを世に送り出した。
すなわち一貫したサウンド・ポリシーが長期間保たれていたのだ。
一流の演奏、一流の技術が組み合わさり生み出す
クオリティの高いレコードが市場を満たしていた。

世界最古のオーケストラといわれるライプチヒのゲヴァントハウス、
燻し銀の音、ドレスデン・シュターツ・カペレ、
そして、歴史あるベルリン国立歌劇場の録音などは、
エテルナでしか完全なかたちで聞くことはできない。

指揮者では、これらのオケの歴代首席をつとめた
アーベントロート、コンヴィチュニー、スイトナー、マズアらが大作を振り、
器楽では日本で大人気のバイオリニスト、
カール・ズスケのモーツァルトを聴くことができる。
彼はモーツアルトの演奏では百年に一人といわれる。

アーティストの人数は限られるが、その音楽水準は呆れる程高い。
音楽家も医者も駅の清掃員も皆同じ給料であった社会で、
各分野に傑出した人物が出てくるのはなぜか。
金銭に換算できない真の芸術の追究が、
共産社会でこそ可能だったというのは何とも面白い現象である。

さてこのエテルナは、ベルリンの壁崩壊以前は幻のご禁制品だった。
筆者は縁あってこのレーベルを日本に輸入し、
レコード・ビジネスを始めた最初の東洋人となった。
1995年には、エテルナのLPカタログの日本語版を発行し、
ほぼその全貌を明らかにした。

私の人生の友というべきレコードなのだ。



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前半はバッハ本人が生前にカントル(音楽監督)を務め、
現在では遺骸を収めている聖トーマス教会(ライプツィヒ)にまつわる3枚。
全てライプツィヒ市営のゲヴァントハウス管弦楽団&聖トーマス教会合唱団の組み合わせ。


第27代カントル G.ラミン指揮
バッハ:カンタータ65番・119番

 
第28代カントル K.トーマス指揮
バッハ:カンタータ56番・82番

 第29代カントル E.マウエルスベルガー指揮
バッハ:カンタータ80番・140番

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後半はETERNAが切り開いたと言える、独自性の有る3枚。

R.マウエルスベルガー指揮/ドレスデン歌劇場o./ドレスデン聖十字架合唱団
シュッツ:ダヴィデ詩篇


ゲヴァントハウス弦楽四重奏団
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲3番・4番 




C.ウーセ(pf)
モーツァルト:Pfソナタ12番K.332,Pfソナタ13番K.333,きらきら星変奏曲K.265


*本記事は雑誌「BIOCITY」に掲載された記事のWEB版です。
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