『推薦盤コメントで紐解く世界の名手達』
 ~第0回 まずは企画の説明から~



さて、季刊誌BIOCITY連載記事のweb版は2020年2月で一区切りとなりました。
3月からは新しい特集を始めてまいります。

その名も「推薦盤コメントで紐解く世界の名手達」です。

弊社HPの商品ページをご覧いただくと、
プレスにまつわるトピックスとは別に「商品詳細」として
そのレコードに纏わる文章が記載されています。
こちらを社内では「推薦盤コメント」と称しております。

御所望のお客様用に印刷サービスを行っているほど
「参考になる」との評判を頂戴しているのですが、
折角ならば、この文章を使って世界各国の名手達を紹介してみよう、と。
一人の演奏家につき複数枚のレコードから推薦盤コメントを抜粋する事で、
より深いところまで人物について紐解く事が出来るのではという趣旨です。

今回は企画の説明となりますので、一枚だけご紹介。
弊社代表が感銘を受け、会社の屋号の由来にもなった運命の一枚です。




レーベル:旧東ドイツETERNA
レコード番号:820 001
演奏者:F.コンヴィチュニー指揮ドレスデンsk.
作品名:ベートーヴェン:交響曲3番Op.55「英雄」


[弊社シリアル番号:361-029より]
エテルナLP第1号として有名な盤。
(本盤以前にもLPの発売はあったが、レコード番号としては第1号)
1995年に当社が発行したエテルナカタログの表紙も飾った。

1956年の見開き共通ジャケが初出だが(番号にLPMが付く)、
この820 001のジャケットデザインは傑作。
エテルナを象徴するデザインで、東ドイツの文化の高さがうかがわれる。
この録音の後にゲヴァントハウスo.と全曲録音を行うが、
このエロイカだけがドレスデンsk.と録音。
後の録音より圧倒的な演奏の良さで知られている。エロイカの名盤の1つ。


[弊社シリアル番号:636-055tより]
公式にはETERNA社の第1号LP。正確にはこれより前の茶色系見開共通ジャケがある。
コンヴィチュニーはエテルナのベートーヴェン交響曲全集の中で
ゲヴァントハウスo.を振っているが、
このエロイカだけは特別だったようで、初回はドレスデンsk.と1950年代中頃に入れた。

その後、ゲヴァントハウスo.と入れ直しているが、
もちろん初回録音の雄大なスケールには勝てていない。
コンヴィチュニーの録音中トップレベルの内容であり、
歴史に残すべきエロイカの名演と信じる。
緑レーベルが初出!


[弊社シリアル番号:821-140aより]
F.コンヴィチュニー指揮による名盤「エロイカ」。
当盤はコンヴィチュニー黄金期の代表盤にして、
数ある同曲の録音の中でも、古くから圧倒的な評価を得ている不動の決定盤である。

名盤の宝庫エテルナ・レーベルのプルミエ番号を飾る特別な録音で、
演奏についても非常に緊張感のある、実に彫りの深い作品解釈である。
また初期エテルナの緑F重量盤の再生音も絶妙で、
極めて濃密な音質で最高の「エロイカ」を堪能することが出来る。

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上記のような形で、次回より本特集を始めてまいります。
ご希望の奏者、指揮者がいらっしゃれば、是非下記フォームよりご連絡下さい。
https://eterna-trading.jp/contact
期日の確約は出来ませんが、随時ご紹介出来る様に尽力いたします。

レコード・レーベルの黄金期~欧州レーベル編~

『ヴィンテージ・アナログの世界』
レコード・レーベルの黄金期~欧州レーベル編~
(BIOCITY No.78掲載)

※はじめに
 昨年末から掲載を続けていたレーベル特集は
 本誌連載に追い付いてしまうため今回で一旦最終回となります。
 最新のレーベル特集は是非BIOCITY本誌でご覧ください。
 2020年1月7日に発行された81号では、
「米国レーベル史・概説その1」が掲載されております。

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各国のレーベル事情を紐解く本特集、
今回はベネルクス、スイス、オーストリアを取り上げる。

まず紹介する『ベネルクス』
これはベルギー、ネザーランド(オランダの英語表記)、
そしてルクセンブルクという三国の最初の文字を取った頭字語である。

このうち、オランダに関しては以前フィリップスを紹介したが、
それ以外のレーベルは全て小レーベルで、国内および近隣国向けとなっている。
知名度の高いレーベルでは、アルトーン、エトセトラ、イラマック、CNR、
そしてフィリップスの子会社であるフォンタナがある。
自国オランダゆかりの音楽家の録音を企画し、
小規模な運営で10~20年ほど存在したが、CD期まで自力で残ったレーベルはない。

ただし、大手レーベルのオランダ国内に向けたプレス会社は長く存続した。
当時のオランダ通貨だったギルダーは弱く(ポンドの六分の一)、
直接輸入の形では高額となってしまい販売できなかったからだ。

次に、南にくだってベルギー。この国にも大手レーベルはない。
三方向を大陸にはさまれた地理の影響だろうか。
その代わりに地域性を生かした小レーベルが、
1970年代を中心にいくつか誕生している。

仏国ディスコフィル・フランセの当地支社として発展した、
アルファというレーベルが最古参で最大の会社。
1960年代の中期頃から独自録音も開始した。
新興レーベルにはアクサン、ドゥシェンヌ、パヴァンヌ、リチェルカールなど。
ベルギーに所縁のある演奏家をメインに据えたレパートリーで企画運営された。
なかでもクイケン兄弟、ルーマニア出身のローラ・ボベスコの録音が有名。

さらに、現在でも存続しているベルギーのレーベルが1つある。
ブリュッセルで毎年開催される『エリザベス王妃国際コンクール」
そのライブ録音を行う、コンクール財団運営のレーベルである。

そして、ベネルクス三国の最後となるルクセンブルグ。
…この国には、オーケストラは有るがレコード・レーベルは無い。


続いて、スイスとオーストリアのレーベル事情に移ろう。

この二か国に居を構える音楽関係者は非常に多い。
そのため地元で開かれる小規模な演奏会も非常に多いが、
逆に商用録音・販売を行うレーベルは少ない。
有名な演奏家やウィーン・フィルに代表される著名なオーケストラは、
すでに大手の契約に縛られているためだ。
しかし、中堅の地元音楽家を中心に運営する小レーベルはいくつかある。

スイスではクラーヴェス、エリート、イェックリン、チューダーなどが知られる。
チューリヒ生まれの世界的に著名なフルート演奏家、
ペーター・ルーカス・グラーフの録音が複数のレーベルにある。
また、チューリヒで没したルドルフ・ケンペに代表される、
スイスに移住した指揮者が率いたオーケストラ曲の録音も多い。

モーツァルトが生まれ、ウィーン・フィルを擁するオーストリアには、
この2つの特色を生かしたレーベルとして同国最大規模のアマデオがある。
大手の隙間を縫って特定の契約音楽家のための録音と、
ウィーンで行われた他社音源のオーストリア出口としての役割を担ってきた。
ザルツブルクにあるモーツァルテウム管弦楽団や、
その首席奏者で結成されたモーツァルテウム弦楽四重奏団の録音が人気である。

また、モーツァルト生誕200年となる1955年の命日に、
ウィーンのシンボルでもあるシュテファン大聖堂で行われたミサにて
E・ヨッフム指揮で録音された「レクイエム」は、
今もって名演と語り継がれている。
(発売はドイツ・グラモフォンの古楽部門であるアルヒーフ)

一方で、ウィーンから想起される「音楽の都」というイメージと
現実における実体には、いささかの乖離がある。
音楽的にはパリ、ベルリンと同格の都市と言えるが、
国力の弱かったオーストリアは大手レーベルの植民地と化した。

毎年元旦にウィーンで開催されるニューイヤー・コンサートによって
かろうじて「音楽の都」の体面を保ってはいるが、
その録音は上で紹介したヨッフムのレクイエムと同様に
ドイツ・グラモフォンから発売されているのだ。

この事実がすべてを物語っている。


下記、ベネルクス、スイス、オーストリアを代表するレーベルから、
6枚のレコードを紹介する。


 オランダARTONE
H.クレバース(vn)A.リュウ指揮アムステルダムco.
ハイドン:Vn協奏曲(2曲)


 ベルギーALPHA
「ベルギー音楽の遺産」
G.ルメール指揮リエージュ・ソリスツ
グレトリー,ルイエ,イザイ,アプシル


 ベルギーACCENT
B.クイケン(fl)W.クイケン(gamb)R.コーネン(cemb)
ルクレール:Flソナタ集(9曲)


 スイスCLAVES
「三重奏曲集」
フィッシャー三重奏団,P.L.グラーフ(fl)
ブラームス,ウェーバー,ベートーヴェン


 オーストリアAMADEO
「Vnソナタ集」
J.シゲティ(vn)B.バルトーク(pf)
ベートーヴェン:Vnソナタ9番「クロイツェル」
バルトーク:Vnソナタ2番,狂詩曲1番


オーストリアAMADEO
E.d.シュトウツ指揮チューリヒ室内o.
シェーンベルク:浄夜,ウェーベルン:弦楽合奏のための5つの楽章
ベルク:叙情組曲~3つの楽章



*本記事は雑誌「BIOCITY」に掲載された記事のWEB版です
詳しい内容は是非誌面をご覧ください
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レコード・レーベルの黄金期 ~北欧レーベル編~

『ヴィンテージ・アナログの世界』
レコード・レーベルの黄金期 ~北欧レーベル編~
(BIOCITY No.77掲載)

各国のレーベル事情を紐解く本特集、今回は北欧4か国を取り上げる。

北欧の著名な作曲家と言えばグリーグ(ノルウェー)と
シベリウス(フィンランド)が筆頭で、その次にニールセン(デンマーク)が続く。
ステンハンマル(スウェーデン)になると、やや知名度は低くなるだろう。

この北欧の4か国は言語的にも文化的にも類似や共通点が多く、
美術や文学の分野に多くの偉人を輩出している。
その背景として、厳しい気候や短い日照時間の関係から、
屋内で過ごす時間が長い事が良く指摘される。

そして、そんな北欧に住む人々のクラシックLP所有率は極めて高い。
人口に占める割合で言えば全欧州でトップクラスである。

数年ほど前に欧米で「ヒュッゲ」という考え方が大ブームを起こした。
「ヒュッゲ」はデンマーク語で「ほっと寛げる心地よい状態」を意味する言葉。
幸福度ランキングで世界一位に上がるデンマーク人が大切にする、
時間の使い方、心の持ち方、あるいはその全て=ライフスタイルである。
彼らが家族や気の置けない友人と屋内で過ごす穏やかな時間と空間において、
レコードの温もりが欠かせない存在である事が所有率の高さの背景だろう。

とはいえ、自国で大量生産するほどの市場規模は無い。
作品を輸出しようにも物価が高すぎて海外での販路開拓もままならない。
半面、国民所得は高いため欧米の大手レーベルの格好の市場となっているのだ。

では北欧でレコードは生産されていないか、と言えばそうではない。
まず、EMIグループの支社が北欧各国に有るため、
他国で録音した音源をプレスし自国レーベルとして発売している。
北欧諸国内で流通するため、スカンジナヴィアEMIとも呼ばれる。

そして勿論、文化的に裕福なこの4か国には独自レーベルも多数存在し、
その数には驚かされるほどだ。
これらの小規模な地域レーベルは、地元で録音を行い
製造を外部に依頼するという形が主となる。
特に、北欧作品の録音はこれら地域レーベルの重要な役割と言えるだろう。

中心となるのはドイツに最も近いデンマーク。
首都コペンハーゲンは北欧におけるレコード生産の拠点と言っていい。
ここには上記したEMI以外にも、英国DECCAや独グラモフォンなど
大手レーベルのデンマークプレスが有る。

デンマークの独自レーベルとしては「ダナコード」「ポコ」
「タイガー」「ダマ」「プーラ」など。
その中でも「ポイント」「フォナ」「メトロノーム」の三社は特に知名度が高い。

スウェーデンには「スウェーデン協会」「カプリース」「プロプリウス」
「アルタノヴァ」「オプス3」「SR」など。
「ブルーベル」「BIS」の二社は比較的規模が大きいと言って良い。

東にロシアと接するフィンランドでは「エスポー・レコーズ」のほか、
「フィンランディア」「フーガ」「スカンディア」「フェニカ」「アイノラ」など。

もっとも西側に位置し大西洋に面するノルウェーでは
「NKF」「ノシキ・クルトゥラード」「シマックス」「トゥローハウゲン」など。

聴き馴染みの薄いレーベルも多いとは思うが、
すべて弊社で実際に取り扱った事のあるレーベルである。

北欧の独立系レーベルはどれも1970年代に入ってからの創業。
自社工場は持たず、EMIグループの設備を借りるか、
ドイツなどの近隣国への委託生産の形を取っている。
こうした地域レーベルの演奏家となると国際的知名度の高い人物はほとんど居ない。
居ればすでに欧州大手レーベルに所属しているからだ、

しかし、無名な演奏家でも音楽レベルは高く、
耳の肥えた北欧の人々を満足させ「ヒュッゲ」なひと時に彩りを添えている。


以下、北欧レーベルを代表する6枚のLPを紹介する。

デンマークMETRONOME
M.v.ツァリンガー指揮ウィーン交響o./ウィーン・アカデミーcho.
R.シュヴァイガー,H.テッパー(s)H.マイヤー・ヴェルフィング(t) 他
モーツァルト:大ミサ曲K.427


 スウェーデンBLUEBELL
M.ヴィースラー(fl)ウプサラ・カンマーゾリステン
モーツァルト:Fl四重奏曲2番,3番,バッハ:管弦楽組曲2番B.1067


デンマークFONA
コペンハーゲンQt.
ホルムボー:弦楽四重奏1番Op.46,4番Op.63


 デンマークPOINT
「バロックフルート・リサイタル」
M.ペトリ(bf)D.ペトリ(vc)H.ペトリ(spinet)
テレマン,ベリオ,エイック,カステルロ


 スウェーデンBIS
S.シェーヤ(pf)/B.ライセル(vn)N.E.スパルフ(va)
J.O.ヴェディン指揮ストックホルム・シンフォニエッタ
モーツァルト:Pf協奏曲21番K.467,協奏交響曲K.364


フィンランドESPOO
E.オヒヨワ指揮エスポ―室内o.
カンドミノcho.
シベリウス:フィンランディア,恋する人


*本記事は雑誌「BIOCITY」に掲載された記事のWEB版です
詳しい内容は是非誌面をご覧ください
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