レコード・レーベルの黄金期 ~イタリア・レーベル編~

『ヴィンテージ・アナログの世界』
レコード・レーベルの黄金期 ~イタリア・レーベル編~
(BIOCITY No.76掲載)

各国のレーベル事情を紹介していく本特集、
第3回となる今回の舞台はイタリア。

音楽用語の大半がイタリア語である事からも分かる様に、
イタリアはバッハが生まれる以前から数世紀に渡って音楽の先進国であった。
教会と密接な関係にあったクラシック音楽が、
バチカンの膝下で発展を遂げたのは自然の成り行きである。

バッハより一世紀ほど前に活躍した大作曲家クラウディオ・モンテヴェルディは、
1567年に北イタリアのクレモナで生まれ、幼少期にクレモナ大聖堂の学長に学んだ人物。
現代でも演奏される機会の多い「オルフェオ(L'Orfeo)」を皮切りに、
生涯に少なくとも18曲のオペラを作曲した。

この「オペラ」という言葉は、イタリア語で「作品」を意味する。
ドイツ人のフィリップ・テレマン(1681~1767)が登場するまで、
オペラはすべてイタリア語だったのだ。

この歴史的背景から、20世紀のレコード業界は
イタリア・オペラの記録、保存および販売に邁進した。
クラシック音楽全般を扱う海外のレーベルの多くが、
オペラを重要な一部門として位置付けている。

上記の様にオペラの本家である一方で、
ニコロ・パガニーニ(1782~1840)に代表される
「超絶技巧」系のヴァイオリンが発展したのもイタリアである。
これにはストラディバリウスで著名な、
北イタリアのヴァイオリンの産地クレモナの存在が大きく関わってくる。

しかし、そのパガニーニ作品の録音に力を入れたのも、
結局はイギリス、フランス、ドイツなど
大規模なレコード市場を持つ国のレーベルであった。

イタリアのレコードの生産量は上記の三国の1%にも満たない上、
交響曲に至っては独自録音が殆ど無い。
更には、まともな録音設備が存在しない為、
海外のメジャー・レーベルがイタリアで録音を行う際には
機材を自前で持ち込まねばならなかった程である。

そもそも、イタリアでクラシックのレコードを探しても全く見つからない。
家庭で保有する枚数がそもそも圧倒的に少ないので、市場に出てこないのである。
生活の中にオペラや歌曲が浸透している環境下では、
レコードを購入して聞くという行為自体が余り浸透しなかったのだろう。

こうした状況ではあるが、
逆に希少と言えるイタリア・レーベルを紹介していこう。

EMIグループの「ラ・ヴォーチェ・デル・パドローネ(La Voce Del Padrone)」は、
イギリスとフランスで録音された作品のイタリアプレスを担当。

アメリカに本社を置くイタリアRCAは本国イタリア出身のヴァイオリニスト、
サルヴァトーレ・アッカルドの無名時代の録音を収めた。
その後、彼が有名になりオランダPHILIPSに移籍すると、
松脂飛び散る激情的な演奏は鳴りを潜めてしまった。

イタリア最大のレーベルである「チェトラ(CETRA」は国営として始まり、
同じく国営の公共放送「イタリア放送協会(RAI)」との結びつきも強く、
ラジオ放送を兼ねたオペラの録音を数多く収めた。
まさにオペラLPの宝庫と言える。

「リコルディ(Dischi Ricordi)」は数少ない室内楽・器楽を柱としたレーベル。
「アンジェリクム(Angelicum)」は宗教音楽を主流とし、
「メロドラム(Melodram)」は多数のオペラ録音を残した。
1970年代には振興の小レーベルが、それぞれ独自の路線を展開していた。


さて、前回紹介したスペインとイタリアとの大きな違いは、
海外レーベルに流出した音楽家の質と量である。

アメリカRCAはA.トスカニーニ指揮の作品群で世界的レーベルにまで発展した。
トスカニーニの後継者と見なされたグィード・カンテッリを得たイギリスHMVは、
LPレコード製作の第一弾に彼が指揮するチャイコフスキー「交響曲第5番」を選んだ。

同じく指揮者のクラウディオ・アバドは、
独グラモフォンに移籍するとドイツ中にオペラ旋風を巻き起こした。
現代最高のピアノ奏者の一人である、
マウリツィオ・ポリーニもDGGで録音を量産した。

イギリスDECCAと契約したルチアーノ・パヴァロッティは、
スペイン出身のドミンゴ、カレーラスの両者と共に「三大テノール」と称される。

ローマで産声を上げたイ・ムジチ合奏団によるヴィヴァルディ「四季」は
オランダPHILIPSで1955年に初録音されると累計300万枚を売り上げ、
日本にも「四季」ブームを到来させた。

上に列挙した世界的知名度を誇る音楽家たちの全てが、
イタリアに生まれながら他国のレーベルに「流出」した人材なのである。

下記、イタリア・レーベルを代表する6枚のレコードを挙げる。


伊ARS NOVA
R.ガンドルフィ指揮ミラノ・スカラ座ポリフォニコcho. 
M.フレーニ(s)L.ヴァレンティーニ(ms)L.パヴァロッティ(t)R.ライモンディ(bs)
L.マジエラ(pf)V.ロゼッタ(ハーモニウム)
ロッシーニ:小ミサ・ソレムニス(小荘厳ミサ曲)


 伊ITALIA
P.スパダ(pf)
ケルビーニ:Pfのためのカプリッチョ(エチュード),Pfのための幻想曲


 伊ARCOPHON
A.エフリキアン指揮ミラノ室内楽団
M.リナルディ/C.ヴィラルタ(s)R.ボルトルッチ(vn) 他
カリッシミ:オラトリオ「ヨナの物語」


 伊ANGELICUM
F.グッリ(vn)E.カヴァッロ(pf)
P.ウルビーニ指揮アンジェリクムo.
メンデルスゾーン:VnとPfの二重協奏曲ニ短調MWV. O4,Vnソナタ


 伊CETRA
G.カミルッチ指揮レッコ音楽クラブ・アカデミアcho.
ヴェッキ:音楽喜劇「パルナッソス山をめぐって」


伊DYNAMIC
D.リニャーレス(gt)T.フュリー(vn)L.A.ビアンキ(va)F.グイ(vc)
パガニーニ:Gt四重奏曲14盤,Gt四重奏曲15番


*本記事は雑誌「BIOCITY」に掲載された記事のWEB版です
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