ETERNA TRADING LTD: レコード・レーベルの黄金期～スペイン・レーベル編～

『ヴィンテージ・アナログの世界』
レコード・レーベルの黄金期～スペイン・レーベル編～
（BIOCITY No.75掲載）

前回のフランスから始まった各国のレーベル事情の紹介、
今回はスペインを取り上げる。

今日のクラシックと言えば、バッハ、モーツァルトを筆頭として
ベートーヴェン、ブラームス、ショパン、チャイコフスキーなどが中心となり、
結果として、彼らの出身地や活躍した各都市…つまりロンドン、パリ、ベルリンが、
レコード生産と消費の中心地と重なる事は自然の成り行きと言える。

一方、スペインが所在するイベリア半島は
レコードの生産や市場から見ればやや中心を外れるが
それ故にイベリア固有の音楽文化が発展した。

例えば、アルベニス、グラナドス、ファリャ、サラ・サーテ、
タルレガ、ロドリーゴ、ソレル、モンポウらによる作品群が
スペイン音楽の筆頭に挙げられる。
また、歴史的には12世紀ごろから教会音楽が盛んになり、
欧米列強と同様の経緯を辿ってロマン派を迎える事となる。

ひとつ特徴と言えるのは、前述したイベリア音楽文化の中心を担った作曲家たちの、
生年が1800年代に集中している点にある。
バッハが1685年、ベートーヴェンが1770年生まれなのに対し、
イベリア音楽の最盛期を支えた彼らの生年は
ドヴォルザーク（1841年生誕）やドビュッシー（1862年生誕）辺りと重なる。

アルベニスとグラナドスの二大ピアノ作品、
ファリャによる色彩豊かなオーケストラ作品、
ロドリーゴを中心としたギター音楽の一派、
これらが現代にも繋がるスペイン音楽を形作っている。
彼らの音楽にはこの地域特有のメロディやリズムが有り、我々を魅了してやまない。

スペインでもっとも古いレーベルは、
EMIグループのVDS（la Voz De su Amo）とスペインColumbiaの二社だろう、
国際的ギター奏者であるナルシソ・イエペスの初期録音もColumbiaにある。
ちなみに経営的には、二社とも西欧大手レーベルのコピー販売が支えた。

続いて名前が挙がるレーベルとしては「イスパボックス（Hispavox）」がある。
教会音楽からギター音楽まで幅広くイベリア作品を世に出した。

また、小さいレーベルだが「アルハンブラ（Alhambra）」は
ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス指揮のオーケストラ作品を中心に、
サルスエラ（スペイン・オペラ）などの郷土音楽で成功を収めた。

「エンサヨ（Ensayo）」は、バルセロナ出身の作曲家、
フェデリコ・モンポウによるピアノでの自作自演と言う貴重な録音を所有。
後にイギリス・フランス両国で活躍するメゾ・ソプラノ歌手、
テレサ・ベルガンサの地元録音も同社に有る。

その他、ヴェルガラ、サフ、サルペ、サコダ、サピロ、
サンブカ、ネヴァダ、ルサム、エディグサなどの
個性的なマイナーレーベルが存在し、
大手メジャーでは製作が不可能なコアな録音群で全体に彩りを添える。

最後に、演奏者の話もしておこう。
我々日本人も含めた世界的に有名なスペインの音楽家と言えば、
チェロ奏者のパブロ・カザルス（Pablo Casals）、
ギター奏者のアンドレス・セゴビア（Andrés Segovia）、
この二名の名前が挙がるだろう。

カザルスは1876年スペイン北東部のカタルーニャ生まれのチェロ奏者。
1899年、23歳の頃からパリを拠点に本格的な活動を開始する。
近代的奏法の確立や、バッハ「無伴奏チェロ組曲」の再評価への貢献で知られ、
ピアノのアルフレッド・コルトー、
ヴァイオリンのジャック・ティボーと組んだトリオは
「20世紀最高のピアノ三重奏」と評される。

セゴビアは1893年スペイン南部のリナレス生まれ。
多彩な音色を産み出してギターという楽器の表現力を飛躍的に伸ばし、
ギター音楽の復興、バッハ～ロマン派音楽のギター編曲を通じて
クラシックにおけるギターの芸術価値を大きく飛躍させた。

とは言え、二人はスペイン最初の国外流出組でもある。
イギリス、フランス、アメリカなどの国際舞台では大いに名を挙げたが、
地元スペインには録音が殆ど残っていないのだ。

下記、スペイン・レーベルを代表する6枚のレコードを挙げる。