レコード・レーベルの黄金期 ~フレンチ・レーベル編~

『ヴィンテージ・アナログの世界』
レコード・レーベルの黄金期 ~フレンチ・レーベル編~
(BIOCITY No.65掲載)

前回紹介した仏エラートを機として、
今回からはメジャー・レーベルを離れて各国のレーベル事情を紐解いていこう。
まずはフランスの特殊なレーベル事情とマイナー・レーベル群を紹介する。

レコードは通常、レコード会社が演奏家と契約し、
企画を立て、録音を行い、製造・販売に至る。
レコード会社、つまりレーベルの数も「一ヵ国に数社」が普通である。
共産圏ともなれば国営となる為、基本的に一社となる。
ところが、フランスという国だけは事情が違う。

1950年代にLPが発売されるとすぐに、
演奏の『録音だけ』を手掛ける会社が多数台頭しはじめる。
その数は1950年から80年頃までに大小合わせて60社を超えるが、
ほとんどのレーベルが自社でレコードを製造することは無かった。

彼らは大手レーベルに籍を持たない演奏家を発掘し、
その録音をプロデュースする。
そして録音を終えた後はプレス会社に委託して、
製造あるいは販売まで任せる。

そういったマイナーレーベルが乱立し、
趣向に富んだ企画を世に送り出していた。
これがフランスのレコード業界の実態である。

それを可能にしたのは、
世界中から音楽家やその卵たちが群れ成して集まる国際都市パリの存在である。
人材に事欠くことが無いのだ。
音楽家たちは自身の芸術性をアピールするため、次々と新機軸を打ち出した。
このフランスの特殊な状況は、芸術の都パリが持つ多様性と、
そこで生み出された玉石混交の表現を引き受ける、
プレス会社の存在が大きかった。

こうして一世を風靡したマイナーレーベルだったが、
その大半が発足から10年程度で経営に行き詰まり、
フランスEMIグループのVSM(la Voix de Son Maître)に吸収された。
最後まで生き残ったのは、前回紹介したエラートだけである。

ここからは代表的なフレンチ・レーベルを紹介しよう。

SP時代から存在していたのが「DF」の略称で知られる、
ディスコフィル・フランセ(les Discophiles Francais)。
録音を音響技師アンドレ・シャルランに委託し、
今でも世界に誇るモノラル録音群を築いた。
特に、ウィーンフィルの首席だったヴィリー・ボスコフスキー(Vn)が
女流ピアニストのリリー・クラウスと手を組み録音した、
モーツァルトのヴァイオリンソナタ全集は永遠のコレクターズアイテムである。

次に抑えるべきレーベルとしては、
デュクレテ・トムソン(Ducretet Thomson)の名が挙がるだろう。
一枚10万円を超える価値が付く希少なレコードが、
今もって多数出てくる重要レーベルである。
ヴァイオリンのデュビー・エルリ、ピアノのティッサン・ヴァランタンなど、
大手では聴けない歴史的名手の、まさに宝庫と言えるだろう。

他の古いレーベルではシャン・デュ・モンド、クリュブ・フランセ、
クリュブ・モンディアル、クリュブ・ナシオナル、コンセルテウム、
クリテール、オデオン、トリアノン、ヴァロワ、コントルポワン、
プレトリア、オワゾリール、ヴォーグ、ヴェガ、BAM、CLASSIC、CIDなど。

1970年代には高音質ステレオ録音を謳ったレーベルが多数出現する。
アコード、アデ、アリオン、アストレ、カリオペ、
ハイドシェックの個人レーベルのカシオペ、
前述した音響技師の自社レーベルのシャルラン、
ムジ・ディスク、ソルスティス、FYなどは、発売数量も多かった。

※文中に登場したレーベルの英語(フランス語)表記
 
・Chant du Monde ・Club Francais
・Club Mondial ・Club National ・Concerteum 
・Critère ・Odeon ・Trianon ・Valois ・Contrepoint
・Pretoria ・L'oiseau-Lyre ・Vogue ・Vega
 
・Accord ・Ades ・Arion ・Astree ・Calliope
・Cassiopee ・Charlin ・Musidisc ・Solstice

実を言えば、まだまだレーベル名は挙げられるが、
きりが無いのでここまでにしておこう。

これらのマイナーレーベル群は、
フランス音楽世界の層の厚さを世に出すことに確かに寄与した。
しかし、あくまでも消費は国内に留まり
ほとんど国際的認知を得ないまま終わってしまったのが残念でならない。

※弊社エテルナトレーディングでは、
 今回の特集で紹介した仏マイナーレーベルのレコードを多数取り扱っております。
 上記の英語表記を使ってHPで検索していただくか、
 ご来店いただければ店頭スタッフがご案内差し上げます。


下記、フレンチ・マイナー・レーベルを代表する6枚のレコードを挙げる。

[仏Les Discophiles Français]
W.ボスコフスキー(vn)L.クラウス(pf)
モーツァルト:Vnソナタ全集


[仏Club National de Disques]
I.マルケヴィチ指揮フランス国立放送o.
ストラヴィンスキー:妖精の口づけ,プルチネッラ


 [仏Ducretet Thomson]
D.Eアンゲルブレシュト指揮シャンゼリゼo.
ドビュッシー:海,「管弦楽のための映像」~イベリア


[仏BAM]
F.プーランク(pf)G.トゥレーヌ(s)
サティ:ジムノペディ,グノシエンヌ,
天国の英雄的な門の前奏曲 他(全9曲),
プーランク:気まぐれな婚約,ガルシア・ロルカの3つの歌


 [仏BAM]
H.フェルナンデス(vn)J.P.ランパル(fl)E.パスキエ(vc) 他
クープラン:王宮のコンセール14,10,6番,
アストレ・ソナタ,インペリアル・ソナタ,スルタン妃のソナタ 他


[仏Ducretet Thomson]
D.E.アンゲルブレシュト指揮
シャンゼリゼ劇場o./フランス放送cho.
ラヴェル:ダフニスとクロエ


*本記事は雑誌「BIOCITY」に掲載された記事のWEB版です
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