レコード・レーベルの黄金期 ~仏ERATO編~

『ヴィンテージ・アナログの世界』
レコード・レーベルの黄金期 ~仏ERATO編~
(BIOCITY No.64掲載)

本特集では、ここまで英国、ドイツ、オランダ、
そしてEMIグループといったメジャー・レーベルについて見てきたが、
今回はフランス特有のレーベルを代表してエラート(ERATO)を紹介する。

1953年、コスタラ出版の録音部門としてフィリップ・ルーリーが創立し、
ギリシア神話の芸術の女神「エラトー」の名を冠した
クラシック音楽専門レーベルとして出発。
1992年にワーナーの傘下となるまで、
独立系フレンチ・レーベルとして最大の規模を誇った。

バロック作品を中心に据え、しかも最初から有名な演奏家は使わず、
レーベルと音楽家が一体となって独自の価値を創造した稀有な会社である。
エラートほど大手らしからぬ偏った路線で長続きしたレーベルは他にないだろう。
その精神は30年以上変わることは無かった。

カタログを見れば歴然である。
クラシックの、特にメジャー・レーベルにとっては必須とさえ言える
ベートーヴェンの交響曲が見当たらないのだ。
と言うより、そもそも交響曲自体がほとんど無い。

替わりに馴染みの薄い宗教作品のオンパレードが、
1950年代から80年代まで続く。
そして仏レーベルらしからぬバッハの充実ぶり。
しかも演奏にはドイツ人音楽家を起用しているのだ。
今ではその多くがマニア垂涎のトップ・アイテムとなっている。

フランス的な華麗な音質と、最高ランクの演奏の合体。
その価値は今もって揺らぐことが無い。
自然な音質と一貫した内容重視こそERATOの真骨頂であり、
長年耳の肥えたファンから愛され続けた理由だ。

埋もれた古楽作品の発掘、無名ながら実力のある演奏家の起用。
レコード会社としての純粋さでは、EMIの対極にあると言っていいだろう。
心配になるほど売れそうにない珍しい録音ばかり発売したが、
結果的には好事家のみならず音楽家からも絶大な信頼を得て
フランス音楽文化の発展に寄与した。

エラート・レーベルには世界的に著名な指揮者、演奏家は少ない。

しかし、自らの室内オーケストラを擁した指揮者である、
クルト・レーデル、ジャン=フランソワ・パイヤール、カール・リステンパルト。
合唱指揮で手腕を振るったフリッツ・ヴェルナー、ミシェル・コルボ。

ヴァイオリンのピエール・ドゥカン、ラインホルト・バルヒェット。
ピアノにはジョルジ・シェベック、ミシェル・ボグネール(ベグネール)。
チェンバロのロベール・ヴェイロン=ラクロワ、
オルガンのマリー=クレール・アラン、フルートのジャン=ピエール・ランパル。

そしてフランス各地の歴史的教会のオルガンと
教会に根付いた合唱団など、全幅の置ける音楽家がひしめく。

録音技術も独自のポリシーを貫き、ステレオも1960年頃に導入したが、
王道であるモノラルのクオリティを最後まで保った。
また、フレンチ・レーベルらしくジャケットデザインにも独特の雰囲気がある。

異色のスタイルで発足した独立系レーベルは数多く生まれたが、
大半が10年以内に大手に吸収されてしまった。
その中で唯一成功を手にした会社、
それが「フランスの良心」と言われたエラートである。

最後に、LP全盛期以降のエラートについて書いておこう。
1970年代に米RCAの資本が一部入るとプレスは全てRCAが行い、販売網は拡充した。
しかし1980年に創業者プルーリーが引退すると従来の演奏家たちは離れてしまい、
次世代の音楽家たちの舞台へと変貌する。

そしてCDの発売から10年ほどで
大手他社と同様に国際大資本であるワーナーの傘下となり、
2000年代には休眠状態にまで陥ってしまう。
しかし近年、ワーナー・クラシックスの一部門としてレーベルが復活。
緑色のロゴは今もCD店の棚に並んでいる。


下記にエラートを代表する6枚のレコードを挙げる。


H.フェルナンデス(vn)
J.F.パイヤール指揮 パイヤール室内o.
バッハ:Vn協奏曲B.1041,B.1042,
「音楽の捧げもの」B.1079~6声のリチェルカーレ


 L.フレモー指揮パイヤール室内o.
E.ゼーリヒ(s)J.コラール(cont)
ド・ラランド:モテット「主よ,いかに永く」,
「汝はたたえられん,わが王なる神」


K.レーデル指揮ミュンヘン・プロ・アルテ室内o.
ヴィヴァルディ:2Tp協奏曲,Fl協奏曲,4Vn協奏曲,Vn協奏曲

E.マルタン指揮サン・ユシュターシュ合唱団 
シャルパンティエ:復活祭の為の聖土曜日のミサ,
デュ・コーロワ:レクイエム


K.レーデル指揮ミュンヘン・プロ・アルテ室内o.
バッハ:ブランデンブルク協奏曲(全曲)


E.マルタン指揮サン・ユシュターシュ合唱団 
パレストリーナ:ミサ曲「永遠のキリストの恵み」,
「ラウダ・シオン」


*本記事は雑誌「BIOCITY」に掲載された記事のWEB版です
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