レコード・レーベルの黄金期 ~蘭PHILIPS編~

『ヴィンテージ・アナログの世界』
レコード・レーベルの黄金期 ~蘭PHILIPS編~
(BIOCITY No.58掲載)

名門レコード・レーベルを紹介する本シリーズ。
2020年初回となる今回はフィリップス(PHILIPS)を取り上げる。

現在でも電気シェーバーや電動歯ブラシのテレビCMでお馴染みの
オランダの巨大電機メーカー(創業は1891年)であり、
近年になって中国や韓国メーカーが台頭する以前は
欧州のデパートの家電売場をほぼ独占していた企業である。

英国デッカ社と同様に会社名がレーベル名となり、
1950年より2009年の再編までフィリップス社は多国籍レーベルとして
本国オランダ以外にも英国、ドイツ、フランス、アメリカ、
そして日本を含む先進国において、その国のプレスで販売されてきた。

また、殆どの音楽ファンがカセット・テープやCDの恩恵に浴してきたが、
両者ともフィリップス社の開発製品である。
(CD=コンパクト・ディスクはソニーとの共同開発)

発足当初は地元の歴史あるアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団と
その首席指揮者たち(メンゲルベルク、ベイヌム、ハイティンク)の録音を軸としたが、
1950年代中期からは世界に録音チームを送っている。
他国の一流指揮者、演奏家の客演も積極的に受け入れ、
カタログを充実させていったのだ。

ヴァイオリンではフランコ・ベルギー楽派(※)の重鎮、
アルテュール・グリュミオーをメインに
ヘンリク・シェリング、サルヴァトーレ・アッカルドと
人気のヴァイオリニストを起用。

※フランス・ベルギー派とも呼ばれる弦楽器奏法の系譜。
 バロックを起源とした柔らかく典雅な音が特徴とされる。
 他にはドイツ派、ロシア派などが著名。

ピアノではフィリップスの録音から有名になったクララ・ハスキル、
イングリット・ヘブラー、アルフレート・ブレンデルと、こちらも多彩。
クラウディオ・アラウも晩年は全集録音を多数行った。

日本で著名なところで言えば、
ヴィヴァルディ「四季」が一世を風靡したイ・ムジチ合奏団や、
ソプラノ歌手エリー・アーメリングも長年所属していた。

また、1956年のモーツァルト生誕200年記念録音では、
他社に抜きんでた素晴らしいシリーズをリリース。
今もってモーツェルト・ファン垂涎の的となっている。
更には米コロンビア社の欧州出口として、
ブルーノ・ワルター、バーンスタインらのアメリカ録音を製造販売した。

フィリップスの特徴は、古き良き欧州の伝統的なコンサートホールの響きを、
そのまま自然で落ち着きのある音質で提供していること。
このしっとりとした音は「残響が約3秒」と言われる
戦前から残るコンセルトヘボウのホールに関係があり、
技術的にも4本マイク式ワンポイント録音など、
エンジニアも兼任したプロデューサーの独自のノウハウがある。

例えアメリカで録音されても、
PHILIPSレコードで聴くワルター&コロンビアo.のベートーヴェンは
オランダ録音かと錯覚するほど欧州的な音に仕上がる。
プレスのマジックであり、フィリップスの文化である。

こうした職人芸とも言える一貫した主義により、
我々のような遠い国のファンにも欧州伝統の音を教えてくれるのだ。
約60年間に渡りクラシックの世界レーベルであり続けた最大の理由だろう。


最後に、よく聞かれる質問として
「プレス国による音の違いは有るのか?」というものが有る。
レーベルに限らず「違いは大きい」がその答えだが、
特にフィリップスは特徴的と言える。

蘭英仏独の4種の同じ録音を聴き比べると、
いつでもオランダプレスが最もしっくりくるのだ。
(ちなみに日本盤は論外と言えるほどクオリティが下がる)

ここにもまた、オランダ発祥の職人魂が感じられる。



下記にフィリップスを代表する6枚のレコードを挙げる。


 A.シュヴァイツァー(org/ギュンスバッハ教区教会所有)
「バッハ・オルガン録音集」
トッカータとフーガ(2曲),前奏曲とフーガ(6曲),
パッサカリアとフーガ,他(全12曲)


 S.リヒテル(pf)
ムソルグスキー:展覧会の絵,ラフマニノフ:前奏曲Op.32-12


 A.グリュミオー(vn)C.ハスキル(pf)
モーツァルト:VnソナタK.454,526


ブダペストQt.
ベートーヴェン:SQ7番「ラズモフスキー1番」OP.59-1 


 E.v.ベイヌム指揮コンセルトヘボウo.
ブルックナー:交響曲8番,シューベルト:交響曲3番


P.v.ケンペン指揮ベルリンフィルo.(7番)/J.プリッチャード指揮ウィーン交響o.
ベートーヴェン:交響曲7番Op.92,1番Op.21


*本記事は雑誌「BIOCITY」に掲載された記事のWEB版です
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