レコード・レーベルの黄金期 ~独グラモフォン編~

『ヴィンテージ・アナログの世界』
レコード・レーベルの黄金期 ~独グラモフォン編~
(BIOCITY No.59掲載)

さて、前回までの三回の記事で英国関連のレーベルを紹介したが、
第4回となる今回はドイツを代表するレーベルを紹介しよう。

そもそも、クラシック音楽の大半はドイツ語圏を発祥としている。
ドイツ人指揮者のハンス・フォン・ビューローが命名した、
「三大B」という言葉をご存知だろうか。
バッハ、ベートーヴェン、ブラームスの頭文字を取った、
クラシック音楽の主要な三人の作曲家を意味する言葉だ。
この三人の他にモーツァルトやヘンデルまで含めても、
全員がドイツ語圏生まれで、これほど音楽の源泉が豊かな国は他にないのだ。

各国の音楽事情をレコードで紐解いた時、
自国に音楽的な源泉が希薄な英国がレコードを産業として発展させた事実、
逆に、生活の中に音楽が溢れていたイタリアがレコードには無頓着だったことは面白い。

さて、豊富な音楽的資源を有するドイツでは、
英国に多少の遅れを取ったものの、
音楽を記録再生するためのレコード技術には事欠かなかった。
何故ならアメリカで円盤レコードを発明したエミール・ベルリナーが
自国ドイツ出身の人物だったからだ。

ベルリナーは普仏戦争(1870~1871)の折にアメリカに移住し、
グラハム・ベルの研究所において電話機や蓄音機の発明に貢献。
その技術を基にして故郷であるドイツのハノーファーで
1898年に英国グラモフォンの子会社を設立した。

その後の1941年には100%ドイツ資本となり、DGGが発足する。
ちなみにDGGとは「ドイッチュ・グラモフォン・ゲゼルシャフト」の略で、
「独国の・営利企業・グラモフォン社」といった意となる。

前回紹介したEMIのドイツ代表であるエレクトロ―ラ、
電機メーカーを出自とするテレフンケンもレコード制作に参入したが、
ブランド化に成功したドイツ・レーベルはDGGの他には無い。

発足当初から現在に至るまで続く黄色いレーベル、
そして黄色地の横帯に文字を組み込んだ独自デザインのジャケットは、
先進各国においてドイツ音楽に対する憧憬と信頼を持って迎えられた。
日本のレコード店の店頭でも一際目を引くこのジャケットは、
クラシック・ファンの御用達レーベルであり続けた。
古くからのレコード愛好家の棚には、必ず数枚並んでいるはずだ。

著名なベルリン・フィルハーモニーを筆頭に、
ドイツ各地には地域のオーケストラや合唱団がひしめきあい、
各々が独自の音を持っている。
DGGは、それらを確実に記録して残した。

また、バロック作品においてはLP製造当初から分社化し、
アルヒーフ(ARCHIVE)レーベルとして専門的に取り扱ったことも知恵である。
結果、ロマン派ファンもバロック愛好家も余す所なく取り込むことに成功した。
根本的に様式が異なっている両者なのにも関わらず、だ。

DGGから実際に発売された内容を指揮者視点で見てみると、
20世紀クラシック界の帝王と呼ばれたH.v.カラヤンを筆頭に、
W.フルトヴェングラー、K.ベーム、E.ヨッフム、R.クーベリック、
F.フリッチャイ、C.アバド、C.M.ジュリーニ、C.クライバーなど、
名だたる巨匠を擁し、数多の優秀な器楽奏者たちに機会を与えた。

この様に、DGGは幅広くドイツ音楽の神髄を世界に発信し、
王道を貫いたレーベルとして今日に至る。
それは単純に自国の音楽を紹介するという側面にとどまらず、
文化・社会貢献といった側面を有していた。

一つだけ欠点を挙げるとするならば、
粗製乱造(主にカラヤン)が有ったことは否めない。
だが、視点を変えて、リスナーに多くの選択肢を用意し、
批判や審美眼を養う材料を提供したと考えれば、決して汚点ではない。

世界最大手レーベルの英国HMV社に対抗できた唯一のドイツレーベルであり、
英国側の弱点を突いて発展を遂げたレーベルでもある。
80年近い歳月を経た現在でも、街角のCDショップを覗けば、
あの黄色い横帯のジャケットは威風堂々と鎮座している。


※2019年のブログ記事の掉尾を飾る事となったDGG。
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下記、DGGの代表的レコード6点を紹介する。


E.ヨッフム指揮ベルリンフィルo.
ブラームス:交響曲2番Op.73 


E.ヨッフム指揮ベルリンフィルo.
ブルックナー:交響曲7番 


 K.ベーム指揮ベルリンフィルo.
モーツァルト:交響曲40番K.550,41番K.551「ジュピター」


 W.ケンプ(pf)
ベートーヴェン:Pfソナタ「月光」「悲愴」「熱情」


C.クライバー指揮ウィーンフィルo.
ベートーヴェン:交響曲5番「運命」Op.67


P.ドミンゴ(t)
C.M.ジュリーニ指揮ロサンゼルスフィルo.
オペラ・アリア集
ドニゼッティ,ヴェルディ,アレヴィ,マイアベーア,ビゼー


*本記事は雑誌「BIOCITY」に掲載された記事のWEB版です
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