ETERNA TRADING LTD: レコード・レーベルの黄金期～各国EMI編～

『ヴィンテージ・アナログの世界』
レコード・レーベルの黄金期～各国EMI編～
（BIOCITY No.63掲載）

前回はニッパー犬でお馴染みのHMV（英国グラモフォン）と。
HMVレーベルを傘下に持つレコード会社EMIについて紹介した。
今回はEMIグループとHMVの海外レーベルを更に深く取り上げる。

HMVが英国以外で流通される場合、大きく三つのケースに分類できる。

まず、フランス、ドイツ、アメリカの三国は
自国内のオーケストラおよび演奏家の録音が多数あり、
その規模において英国とは同等である。

英国HMVとは録音音源を融通しあう関係に有り、
フランスではVSM（la Voix de Son Maître）、
ドイツではElectrola（エレクトロ―ラ）、
アメリカではANGEL（エンジェル）という異なるレーベルから発売される。

次に、一方的に音源供給を受けていた国々のケース。
ラテン系の国では仏VSMと同様に、
「His Masters Voice」を個々の言語に訳した三文字の略称を用いる。
例として、イタリアのVDP（la Voce Del Padrone）、
スペインのVSA（la Voz De su Amo）などが挙げられる。

ベルギー以北の欧州では各国HMVレーベルの名で、
それぞれの国が音源を仕入れ、製造・販売した。
南アフリカ、オーストラリア、ニュージーランド、カナダも
このケースにあたる。

そして3つ目のケースは、提携関係のない国々。
東欧や旧ソ連などの共産圏では国営レーベルに混じってスポット的に販売される。
旧ソ連メロディア、旧東独エテルナがそれにあたる。
日本の場合もこの提携関係が無かったケースで、
1973年まで英国側の資本参加がなく、
ニッパー犬のロゴが使えないままアナログ製作の終了を迎えた。

さて、EMIグループ最大、かつ最も重要なパートナーがフランスVSMである。
VSMの母体であるパテ・マルコーニ社は1896年設立の世界規模を誇る映画会社である。
フランス最大の娯楽産業を作り出し、
特徴的な雄鶏のロゴは今でもパリのあちこちで目にする。

VSMは自社によるフランス録音はもちろん、
英国やドイツの音源もニッパーのロゴで販売できたため、
そのカタログは量、質ともに英独二国を凌駕してしまう程であった。

高い録音技術を確立した半面、音楽資源には乏しい英国と
世界中の音楽家が集まり人材の宝庫であるフランスおよびドイツとの利害が一致し、
多種多様な作品群と洗練された演奏が集まったVSMレーベルは、
音楽の博覧会といっても過言では無い。

指揮者・演奏者の数はここで紹介できる範囲を遥かに超えており、
その演奏も当然ながらハイレベル。
なかでもVSM自社録音の中心を担うパリ音楽院管弦楽団は、
ウィーン・フィル、ベルリン・フィルと肩を並べる名門オーケストラである。

更にはLPの装丁に以前紹介したカッサンドルなど専属デザイナーを起用し、
地味で垢抜けない英独のレコード・ジャケットを尻目に、
まるで工芸品かと思うような美しいデザインで販売した。

VSMという存在自体が、洗練されたフランス文化の広告塔だったのだ。
アメリカ経由の情報しか入ってこなかった日本では不遇の扱いだったが、
フランスこそ今もって最大の音楽大国である。

最後に、前回に続いて日本のEMI事情を。
HMVの音源はアメリカ経由で東芝から販売されたため、
ニッパー犬ではなくANGEL社の天使のロゴだった。

一方で、アメリカ国内でニッパー犬の商標権を持つ
RCAレコードが日本ビクターと提携した結果、
日本でニッパー犬のラベルが付くとRCA音源になるという、
ややこしい事になってしまったのだ。

最後に、各国EMIグループのレコードを6枚紹介する。