レコード・レーベルの黄金期 ~東欧レーベル序文~

『ヴィンテージ・アナログの世界』
レコード・レーベルの黄金期 ~東欧レーベル序文~
(BIOCITY第67号掲載)

第一回の記事では東独のレーベル「エテルナ」を紹介したが、
その東独エテルナも含めた「東欧諸国」のレコード業界の全体像を
前回紹介したロシア(ソ連)の「メロディア」との関連のなかで見ていこう。

ここで言う「東欧」とは1950年~80年代当時にLP生産を行っていた
ポーランド、チェコスロバキア、ハンガリー、ルーマニア、
ブルガリア、ユーゴスラビア、東ドイツの7ヵ国である。

今では存在しない国も幾つかあるが、
これらを一つのグループとして知っておくと
その先に見える各レーベルの「特質」が一層はっきりしてくる。

1950年~80年代、すなわちLPの生産時期と重なるこの時代、
上記の7ヵ国はソ連の衛星国として社会主義体制の壁の役割を担っていた。
レコード生産も当然、計画経済に組み込まれた活動の一環であり、
東ドイツと同様、一国一企業(=国営企業)に託されていた。

この共通項こそが西側レーベルとの最大の相違点であり、
東欧レーベルのアイデンティティでもある。
西側の資本主義の中では売れないレコードは作られないが、
東欧ではどのような目的でレコードが作られたのだろう。
…それは、各レーベルのラインナップを読み解くことで理解できる。

東欧レーベルに共通しているのは、
政治的な関与によって一見でたらめとも思えるような偏りや、
采配の振幅の大きさが有ること。
これこそが東欧レーベルを、西側ではあり得ない独自の世界観を持つ
個性豊かなレーベル群に発展させた最大の要因だろう。

各国のレーベルは以下の通りである。

 ・ポーランド「ムザ(MUZA)」
 ・チェコスロバキア「スプラフォン(SUPRAPHON)」
 ・ハンガリー「フンガロトン(HUNGAROTON)」※QUALITONから改名
 ・ルーマニア「エレクトレコード(ERECTRECORD)」
 ・ブルガリア「バルカントン(BALKANTON)」
 ・ユーゴスラビア「ユーゴトン(YUGOTON)」
 ・東ドイツ「エテルナ(ETERNA)」

個々のレーベルはどれも小規模で種類も限られ、しかもローカル色が強い。
その背景の一つには、有名音楽家の亡命がある。
彼らは、国の威信をかけて海外での公演を行うが、そのぶん亡命の機会も与えられる。

かくして、才能がどんどん西に流出してしまう。
「ニッパー犬」で知られる世界レーベル「HMV」には東欧出身の音楽家が非常に多い。
国に残った薄給の音楽家、自由のない運営では基盤となるオーケストラが育たず
国民が音楽文化を楽しめるレベルには到底いたらない。

だがその一方で、
ソ連および東欧諸国は独自の経済圏を作り互いに連携することで
レコードにおいても(一国では貧弱なカタログでも)、
各国が集まり豊富なラインナップを揃えることができた。

たとえば、チェコスロバキアの首都プラハのレコード店では
ソ連、ポーランド、東ドイツなどのレコードを
自国のレコードと大きく変わらない価格で購入でき、
その価格自体が西側に比べて非常に安価であった。

ちなみに、日本における東欧レーベルの扱いはどうだったか。

米国、英国録音の紹介を中心とした日本のレコード会社のなかで、
東独エテルナ社のレコードが「徳間音工」から1970年代に出ている。
「キングレコード」もハンガリーの録音を、
また「デンオン」がチェコと共同制作など行っていたが、
古い音源の日本盤を発売していた記憶はほとんどない。
社会体制の違いはここにも影を落としていた。

次回以降、既に書いたエテルナを除いた
6つのレーベルについて順に紹介していこう。



本記事の関連レコードはこちら
 ※店頭在庫はジャケット画像をクリックし、
弊社ホームページよりご確認ください



 
【MUZA】
ワルシャワ・クインテット
ザレンブスキ:ピアノ五重奏曲

 
 
【SUPRAPHON】
V.ターリヒ指揮チェコ・フィルハーモニックo.
ドヴォルザーク:スラブ舞曲



 【HUNGAROTON】
D.コヴァーチュ(Vn)
E.ルカーチ指揮/ブダペスト交響楽団
バルトーク:ヴァイオリン協奏曲2番



【ELECTRECORD】
J.ジョルジェスク指揮/J.エネスク・フィルハーモニー
ベートーヴェン:交響曲7番



 【BALKANTON】
P.ラデフ(cl)L.D.クリストヴァ(pf)/ブルガリア国立放送交響楽団
ドビュッシー:Clのための狂詩曲,フランク:交響変奏曲
サン・サーンス:動物の謝肉祭

 
 【YUGOTON】
V.クルパン(pf)
ベートーヴェン:ピアノソナタ集


*本記事は雑誌「BIOCITY」に掲載された記事のWEB版です
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