カッサンドルのレコード・ジャケット NO.2

『ヴィンテージ・アナログの世界』
カッサンドルのレコード・ジャケット NO.2
(BIOCITY No.50掲載)

カッサンドル特集の第二段をお送りする。

近年、本屋を覗くとLP又はCDのジャケットを題材にした本がずらりと並ぶ。
カラー写真で美しく並んだそれらはデザインの重要性を語り、
工芸デザインの役割を強調する。
また、文章においてはデザインの歴史、美術との関わりを論じる。
しかし、それらの書物あるいは雑誌から根本的に欠落しているのは、
主役たるべき『音楽』である。

レコード会社はこの目には見えない『音楽』を表現し、
それを選択しようとする購入者のために、
30センチ四方のカンヴァスの表にデザイン、
裏に文字という2つの方法でアプローチしてきた。

しかし果たして、本当に目的を達成したといえる例はあるのだろうか。
ジャケット裏に記された文字という自由な道具でさえ
音楽の表現は困難であり、今日に至るまで
曲の紹介と演奏者の略歴を記す程度に留まってきた。
ましてデザインという、視覚的に一瞬で印象を与える表現方法はさらに難しい。
LPの価値は中身のレコード盤であり、ジャケットは入れ物に過ぎない。
主役はあくまで音楽である。

音楽家が人生をかけて臨んだ演奏は、黒い円盤に収まった時点で
その行く末がデザイナーの手に委ねられる。
音楽家は自分の音がどのような形で商品化されようと、手も足も出せないのだ。
実際、レコード会社やデザイナーによって販売成績は大きく変化してしまう。
それが音を売るメディアの宿命であり、越える事のできない大きな壁である。

前回略歴を紹介したカッサンドルが、
デザイナーとしてこの問題についてどう考え、悩んだかについて興味があった。
今となっては知る術もないが、彼のたどり着いた結論が
前号で紹介した四つのモチーフ(筆者の勝手な分類だが)ではなかっただろうか。

これを検証するには多くのサンプルを聴き、
音楽とデザインとの相関性を調べる必要がある。
完全な検証ともなれば膨大な作業が必要になるので宿題とさせていただくが、
必要とされる作業の遠大さが想像出来るからこそ、
このカテゴリー分類にも多少の意味があるのではと考えるのである。

今回は、四つに大別したカテゴリーの二つ目、
『枠(フレーム)』を利用したデザインについて。
このグループは全体の五分の一程度を占めると思われる。
これを更にタイプ別に3つに分類し、代表作六点を下記に紹介する。


A フレーム・イン・フレーム
一見複雑な模様だが、同じ装飾枠を波紋のように配し、
視覚的安全性を生みだしている。

A-1
Y.メニューイン(Vn)W.フルトヴェングラー指揮ベルリンpo.
ベートーヴェン:Vnと管弦楽の為のロマンス第1番,第2番
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲


A-2
D.リパッティ(pf)
シューマン:ピアノ協奏曲,グリーグ:ピアノ協奏曲


B 一重フレーム
多様な形の単純なフレームを中央に配し、内部に文字を収める。
自由な背景で音楽の個性を表現。

B-1
A.クリュイタンス指揮パリ音楽院Po.
ロシア管弦楽作品集


B-2
A.クリュイタンス指揮ベルリンPo.
ベートーヴェン交響曲全集


C 飾りフレーム
フレーム全体に施した装飾がインパクトを与えるデザイン。
文字だけのものと、イラストも用いたものの2種類がある。 

C-1
R.ファザーノ指揮ヴィルトゥオージ・デ・ローマ
ヴィヴァルディ:指揮


C-2
E.シュヴァルツコプフ/I.ゼーフリート(ソプラノ)G.ムーア(pf)
歌曲集/ドヴォルザーク,モンテヴェルディ,カリッシミ


*本記事は雑誌「BIOCITY」に掲載された記事のWEB版です
詳しい内容は是非誌面をご覧ください、
購読・バックナンバーのお問い合わせは以下です

株式会社ブックエンド 
東京都千代田区外神田6-11-14 アーツ千代田3331 #300 
Tel. 03-6806-0458  Fax. 03-6806-0459