レコード・レーベルの黄金期 ~スプラフォン編~

『ヴィンテージ・アナログの世界』
レコード・レーベルの黄金期 ~チェコSUPRAPHON編~
(BIOCITY第69号掲載)

東欧レーベル7ヵ国を紹介する本企画、
カッサンドル特集を挟んでの第2弾はチェコ(※文末に注有り)の
「スプラフォン(SUPRAPHON)」。

その歴史は、一九二九年プラハの電気商ラヴィタスが
ドイツのSPレーベル「ウルトラフォン」のチェコでの販売権を取得したことに始まる。
元となったウルトラフォンは1932年に倒産するが、
その権利を買い取りプラハで自国録音を開始、自社工場にて生産を始めた。
これは東欧諸国で最も早い活動であり、この技術がLPヘと受け継がれることとなる。

「スプラフォン」の名は蓄音機のブランド名として商標登録され定着。
第二次大戦後に国家の社会主義化に伴い、
1934年から続くレーベル「ESTA」と1946年に合併し国営企業となった。
その際、レーベル名「SUPRAPHON」の文字の下にライオンのロゴを配置した
お馴染みのデザインが固定化し、現在まで続いている。

1953年、28歳のジャロスラブ・セダが統括ディレクターに任命されると、
その後25年にわたって彼の体制が続いた。

セダは、社会主義の小国のメリットを生かし、
国営放送局と連携してドヴォルザーク、スメタナなど自国が誇る名作をラジオ放送し、
それをLP化する形で古くからボヘミア音楽の録音・発売に力を注いだ。
また、早い時期から輸出に力を入れ、
同一録音で海外向けと国内向けの二種を製作した。

前者は英語表記でジャケットも美しいデザインにして付加価値を高め、
後者は番号も変え、使い回しの利く簡素な共通ジャケットを用い廉価に抑えた。
この施策が効を奏し「ボヘミア音楽のスプラフォン」のブランドを確立させ、
西欧・米国に大量に輸出した。 

1960年頃にはドヴォルザークの交響曲全集を複数の指揮者で完成させ、
スラブ人固有の表現を用いて世界に手本を示した。
「モルダウ」で知られるスメタナの「我が祖国」も1943年より繰り返し録音されている。

チェコは、弦の国と評される。
特に弦楽四重奏団の宝庫であり、質、量ともに他国を圧倒する。
EMIなどメジャーレーベルの弦楽四重奏曲の多くは、
早い時期に海外進出したチェコの楽団が録音を担った。

特に室内楽においてのスメタナ・カルテットとヴラフ・カルテットは、
ラヴェル、ドビュッシーの弦楽四重奏曲を筆頭に名演を残している。
一方で、バイオリンのソリストとして大成したのは、
ドヴォルザークの曾孫ヨゼフ・スークただ一人というのは淋しい限り。

指揮者ではチェコ・フィルを一流に育てたヴァーツラフ・ターリヒの名が外せない。
1949年録音の「新世界」は今もって比類のない名演と讃えられる。
彼の二人の弟子ヴァーツラフ・スメターチェクとカレル・アンチェルは、
ステレオ時代のアイコンともいえ、
彼らによってチェコ・フィルとプラハ交響楽団は
世界的オーケストラに成長し、現在に至る。 

ピアノではプラハ音楽院教授のフランティシェク・マクシアーンがいる。
彼の直弟子であるヤン・パネンカも外せない名前だろう。

スプラフォンは、東欧最大の輸出額と
ウルトラフォンで培った技術をバックに、一流の音質を誇った。
しかし1950~60年代をピークに、東独のエテルナにトップの座を譲る。
その後、1974年にプロデューサーがジャロスラブ・シュダに変わると、
以降は多種・大量生産に舵を切った。

強い個性は失ったが、安定した国際レーベルとして生き残る道を選んだのだ。

※チェコスロバキアは1993年にチェコ共和国とスロバキアとに分離した。
 スプラフォンは2019年現在も現チェコの首都プラハにおいて
 精力的に制作を続けている。


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V.ターリヒ指揮チェコpo.
ドヴォルザーク:スラヴ舞曲集 第1(Op.46),第2(Op.72)



A. ナヴァラ(vc)E. ベルナトーヴァ(pf)
C. シルヴェストリ,V. スメターチェク指揮
ラロ: Vc 協奏曲,フランク: 交響的変奏曲



V. ターリヒ指揮チェコpo.
ドヴォルザーク: 交響曲9番「新世界」Op. 95



k. アンチェル指揮チェコpo.
スメタナ:「わが祖国」(全曲)



V. レプコヴァ(pf)
スメタナ: Pf作品全集-6/チェコ舞曲集第2集Op.21(全10曲)



ヴラフQt.
SQ集/ドビュッシー:弦楽四重奏曲Op.10
ラヴェル:弦楽四重奏曲


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