レコード・レーベルの黄金期 ~フンガロトン編~

『ヴィンテージ・アナログの世界』
レコード・レーベルの黄金期 ~ハンガリーHungaroton編~
(BIOCITY第71号掲載)

東欧レーベル特集、第三弾はハンガリー。
「クォリトン(QUALITON)/フンガロトン(Hungaroton)」を紹介しよう。

ソヴィエト連邦時代のハンガリーは、
最も西側寄りで穏健な社会主義体制をとっていた国である。
しかし、国営企業MHVが管理するレコード業界は他の東欧諸国と同様であった。

国営レコード会社は1951年にレーベル名「クォリトン(QUALITON)」として発足。
ポピュラー部門のレーベルは「トナリット」であったが、
1950年代後期には全ての音楽がクォリトンに統一された。
プロデューサー、音響技師などの詳細は不明ながらタイトルはかなりの点数にのぼり、
前回紹介した旧チェコ・スロバキアのスプラフォンと同程度と思われる。

1967年に部門別にレーベル分けがなされると
クラシック部門は「フンガロトン(Hungaroton)」となる。
他にもポピュラーの「ペピタ」、ロックの「ブラヴォ」、
ジャズの「クレム」など最盛期には22のレーベルが存在したが、
クラシック部門は一貫してフンガロトンのまま1980年代まで続くことになる。

ハンガリーはリスト、バルトーク、コダーイなど歴史に名を残す作曲家を輩出しており、
首都ブダペストにはフランツ・リスト音楽院がある。
また、地域的にロマ(ジプシー)音楽が盛んで、
フンガロトンは日本でも著名なラカトシュ一家をはじめとした
地元演奏家のLPを50年代後期から発売し、ジプシー音楽を世界に広めた。

ただし、先に述べた通り、環境としては他の東欧諸国と同様である。
「国が生んだ宝」としてバルトークの全作品の録音を38枚のLPに完結させた際、
演奏家は全て国内で賄ったが、既に多数の優秀な音楽家が西側世界に流出していた。
もし、そうした演奏家…特に指揮者と弦楽奏者が国内に留まっていれば、
フンガロトンは世界トップクラスのレーベルになったはずである。

その威信からか、国はレコードを「輸出産業」と位置づけ、
1960年代中期からジャケットのタイトルは英語表記だけとなる。
チェコのように、国内版と輸出仕様の区別は設けなかったのだ。

冷戦当時から現在にいたるまで、
英・仏・独などの西側諸国で最も多く市場に出回る東欧レーベルは、
スプラフォンとフンガロトンの二種である。

上記の通り東欧二強の一角を担っていたが、
CD時代に入ると技術で勝る西欧レーベルに押され、売上は減少。
一時は分裂の危機を迎えたが、
1998年に「フンガロトン・レコード・パブリッシャー」として再生し、現在に至る。

最後に、数奇な運命を辿った一人のハンガリー人ピアニストを紹介したい。
彼の名は、ジョルジュ・シフラ(1921~1994)

ロマの血を引くシフラは9歳でリスト音楽院に入学。
国内デビューを果たすが、第二次世界大戦中に戦場で片耳の聴力を失う。
戦後は酒場でピアノを弾いて生計を立てていたが、
1950年に一家で亡命を企てるも発覚し三年間の強制労働に服した。

ようやく自由の身になり酒場に戻ると、
その評判は瞬く間に広まり国家公認のピアニストとして復権。
その後はレコード録音や演奏旅行、リスト賞受賞と活躍するが、
1956年のハンガリー動乱後に行方知れずとなる。

同1956年、ブタペストを訪れていた仏パテ(Pathe)社のディレクターが、
シフラの弾く「ハンガリー狂詩曲」を聞いて仰天し、社をあげて捜索にあたる。
ウィーンで発見され、パリに到着したシフラを待っていたのは
コンサートと録音の嵐、そして国際的な名声であった。

戦争が、ハンガリーの多くの音楽家を過酷な運命へと導き、
あるいは闇に葬った。


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D.コヴァーチュ(vn)E.ルカーチ(vn協)
J.フェレンチク指揮(狂詩曲)ブダペストso.
バルトーク:Vn協奏曲2番,狂詩曲1,2番



J.リエブネル(バリトン)G.フィアス(va)L.メゼー(vc)
ハイドン: バリトン・トリオ(全5曲)


バルトークQt.
ブラームス:SQ1番Op.51-1,2番Op.51-2



J.フェレンチク指揮ハンガリー国立o.
ベートーヴェン:交響曲5番Op.67「運命」



D.コヴァーチュ(vn)M.ベヒェル(pf)
ベートーヴェン:Vnソナタ9番「クロイツェル」Op.47,4番Op.23



S.ラカトシュとジプシー・バンド
ハンガリー・ポピュラー・ソング集(全39曲)


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