ETERNA TRADING LTD: レコード・レーベルの黄金期～バルカントン編～

『ヴィンテージ・アナログの世界』
レコード・レーベルの黄金期～ブルガリアBALKANTON編～
（BIOCITY第73号掲載）

東欧レーベル特集の第五弾、ブルガリアの「バルカントン（BALKANTON）」

ブルガリア共和国はバルカン半島の南西に位置し、ルーマニア、ギリシア、トルコ、
そして旧ユーゴスラビアであるセルビアとマケドニアと国境を接している。　
2010年代の経済規模は青森県と同程度であり、レコード市場も東欧で最も小さい。

その歴史を紐解いていくと、
1934年にリプハ・レコードをはじめとする四社によってSPの生産が始まり、
1945年には、音響技師のデミトリー・クリフが創設した「ブルガリア」で、
最初の国内スタジオでの商用録音が実現した。

LPは1958年から完全な国内生産を開始（※当時は10インチ盤のみ）、
4年後の1962年には12インチ盤の生産も出来る様になり、
レーベルの名称も「バルカントン」に統一される。
このレーベル統一の後、約40年に渡って市場を独占状態にし、
クラシックに限らない全てのジャンルの音楽を国内に供給した。

ステレオ録音は1969年からスタートしている。
これは、1973年にステレオ生産を始めたルーマニアのエレクトレコードより4年早い。
バス歌手ニコライ・ギャウロフのリサイタル盤がステレオ録音によるLPの第一号。
この作品は英国デッカ（DECCA）に供給され、米国でも発売された。
1982年にはデジタル機材を導入し、
1988年に最初のCDが登場しドイツ語圏でも販売された。

バルカントンのロゴは1970年代中期まで
ロシアのキリル文字をモチーフにデザインされており、
管理システム（レコード番号のナンバリング）も「ソビエト法」という
ロシアのメロディア（MELODIYA）レーベルの手法を用いている。
バルカントン＝メロディアを手本にしたレーベルなのだ。

ブルガリアはルーマニアと似た音楽環境にあり、
民族音楽やロマ（ジプシー）音楽が盛んで、クラシックは低調。
おそらくバルカントンの全タイトルでクラシックは一割程度だろう。
ベートーヴェンの交響曲など、全集はおろか一曲も録音がない。

一方、ルーマニアとの決定的な違いは、その民族性である。
国民の八割がロシアと同じスラブ系であり、
9世紀末に端を発したブルガリア正教が国家基盤を成している。
教会音楽が一つの中心的タイトルとなるため、
教会付き合唱団は数多く、結果としてレベルも高い。

ブルガリアは東欧諸国の中で、最も西欧との交流が少なかった国である。
国際的に知られる音楽家はブルガリア弦楽四重奏団、
ボリス・クリストフとニコライ・ギャウロフの二人のバス歌手、
そして女性ヴァイオリン奏者のストイカ・ミラノヴァくらいである。
作曲家もパンチョ・ヴラディゲロフくらいで寂しい限り。
オーケストラはソフィア国立歌劇場とその管弦楽団が知られる程度で、
クラシック分野では完全な辺境といってよい。

しかし民族音楽は独自色を持ち、地域性のある楽器で中東的な音階が用いられる。
管楽器数種で演奏されるロマ音楽の一種「チョチェク」は
英語で「ジプシー・ブラス」と呼ばれ、世界最速のブラスとして一ジャンルを築く。
ベリーダンスの伴奏音楽として日本でも紹介された。

自国の伝統を記録し、保存・発売したバルカントンは、
地域性に根差したローカル・レーベルの代表格として
ブルガリアの音楽文化を後世に伝える重要な役割を果たした。　

バルカントンは、東欧レーベルでは例外的に一度も途切れることなく生き残り、
1990年「バルカントン・ミュージック・パブリッシング・ハウス」と改名し
国有財産を持つ唯一の株式会社として今日に至る。

本記事の関連レコードはこちら

（店頭在庫はお問い合わせください）