クラシック音楽と録音技術の歴史 No.2

『ヴィンテージ・アナログの世界』
クラシック音楽と録音技術の歴史 No.2
(BIOCITY No.54掲載)

どこにいても好きな時に好きな音楽を楽しめるのは、
先人が開発した録音・再生技術の恩恵にほかならない。

1950年以前は前回紹介したSPが録音・再生メディアの主流だったが、
1950年頃からCDの出現する1980年頃までは、LP(Long Playing)の世であった。
歴史的、技術的な話は割愛するとして、
「LPはCDより音が良い(らしい)」という認識は、
今や、噂や風聞の域を超えて通説となった。

現にここ数年、LPの生産量が前年比で倍増となった、
音響機器メーカーがレコードプレーヤーを増産している...etc
こういった話題が新聞、雑誌を賑わせている。
40代以上の方なら、身近にLPやEPシングル盤があった時代の記憶も鮮明だろう。

CDが発売され早や30年が経過したが、このCDからLPへという逆行現象は、
かつてSPがLPへと移り変わっていった時とは、なにか異なる。
メーカーもCDに見切りをつけ、ハイレゾ録音やSACDなどといった
特性を改良した高額なメディアで乗りきろうとしているようだが、
そのような物では対応できまい。

人間の感覚は、100年や200年では変わらないはずだ。
今、いくつかの異なるメディアを鳥瞰すると、
LPは感性的にも取り扱い的にも、ちょうどバランスが取れていると言えよう。

また、クラシック音楽の演奏史において、
1950~60年の10年間が『黄金期』とされる事実を考慮すれば、
LP、それも前半の「モノラル期」が全ての要素において、
ベストなメディアで有ることを疑う余地がない。

コピーに極めて弱いアナログ音源の性質上、録音された時の方式がベストなのだ。
更に言えば、モノラルの音にはステレオではかなわない実在感がある。
人間が快いと感じる音質と技術との奇跡の蜜月であった10年である。
モノラルのLPが市場に出回り始め、たった7~8年でステレオが世に出た。
これもひとつの技術革新ではあったが、その話は次回に譲ろう。

さて、「LPは音質が良い」というのは本当か?
正しくは、SPには劣る。SP音源のLP化されたものを聴き比べれば「一聴瞭然」である。
それではCDと比較するとどうか?これは個人で簡単に実証できる。

パソコンとオーディオ・インターフェイス(ADコンバータ)を使って、
LPの音をCDに焼いてみれば、判断がつく。
出来上がったCDが再生する音がいかに劣化しているか、愕然とするだろう。
CDというメディアは確かに便利であり、選択肢のある社会は豊かだ。
ただし、音楽にこだわる方は迷わず「LPに戻る」という選択肢を選ぶといい。

コンピュータのようなデータを扱う技術と、
音楽のような感性を扱う技術は、分けて考える必要がある。
それなのに何故か一緒にされていことが、全ての誤りの出発点だろう。
音楽に用いるメディアは、選挙では決まらない。
メーカー(供給側)の都合で決まってしまうものなのだ。

下記にモノラル期のLP6点を推薦しよう。
この時期は以前紹介したカッサンドル工房と同様に、
イラストによるジャケット・デザインが主流を占めていた。

 F.コンヴィチュニー指揮ゲヴァントハウスo.
ベートーヴェン:交響曲3番「英雄」


 A.トスカニーニ指揮NBCso./ロバート・ショウcho. 
E.ファーレル(s)N.メリマン(ms)J.ピアース(t)N.スコット(bs)
ベートーヴェン:交響曲9番Op.125「合唱」,交響曲1番Op.21


 W.シュヒター指揮ベルリンpo.
L.リザネク,E.グリュンマー,Eケート(s)
S.ワグナー(a)G.ナイトリンガー(bs)J.トラクセル(t)
シュトラウス:ばらの騎士(ハイライト)


 E.オーマンディ指揮フィラデルフィアo. A.ヒルスベルク(vn)
リムスキー・コルサコフ:交響組曲「シェヘラザード」Op.35


 A.ナヴァラ(vc)C.シルヴェストリ指揮チェコpo.(ラロ),
E.ベルナートヴァー(pf)V.スメターチェク指揮プラハso.(フランク)
ラロ:Vc協奏曲,フランク:交響的変奏曲


A.ボールト指揮ロンドンpo./cho. 
J.ヴィヴィアン(s)N.プロクター(ca)G.マラン(t)O.ブラニガン(bs) 他
ヘンデル:メサイア(ハイライト)


*本記事は雑誌「BIOCITY」に掲載された記事のWEB版です
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