レコード・レーベルの黄金期 ~英国DECCA編~

『ヴィンテージ・アナログの世界』
レコード・レーベルの黄金期 ~英国DECCA編~
(BIOCITY No.57掲載)

ここまでの掲載記事で弊社の得意とするところの東欧レーベルを特集したが、
ここからは「大手」のレーベルについても取り上げていこう。

初回は英国デッカ・レコード(DECCA)。
会社名がそのままレーベル名である。

大手レーベルの先陣をこの会社が切るのには理由がある。
英国にはもう一つ「EMI」という大手があり、
デッカとEMIの2社の全く異なる個性が面白い対比を見せるのだ。
また、デッカは筆者個人が最も愛着を感じるレーベルでもある。

そもそも演奏家は1人1社と契約するため、複数の制作会社と同時に契約は出来ない。
(カラヤンのような特殊なケースはを除く)
つまりレーベルを抜きにして演奏家は語れず、ひいてはクラシックも語れない。
レーベルは演奏家と不可分の関係にあるのだ。

英国デッカはEMIグループに遅れること数年、
1929年にエドワード・ルイスによって設立された。
買収・合併を繰り返し企業として巨大化したEMIとは対照的に、
デッカは第二次大戦の通信技術を応用した「技術優先」の会社であった。

若き天才プロデューサー、ジョン・カルーショー(John Culshaw)に全権を与え、
世界中から実力のある音楽家を集め、演奏の質の高さで群を抜いた。
その顔ぶれは「圧巻!」としか言いようがない。
技術と演奏が相乗効果となってファンを魅了し、
音楽のクオリティを追及する「王道」を貫くことで成長したレーベルであった。

とくに1950年から発売したモノラルLPの「LXTシリーズ」は
「ffrr方式」と呼ばれる高音質録音によって、
60年以上を経過した今日でさえ超えることの出来ない
金字塔的内容と超高音質を誇り、マニア心を鼓舞する(1968年頃終了)。

アメリカ圏での販売は、第二次大戦前は英国デッカの子会社だった
米国デッカが独自に商標権を持っていたため、
デッカの名前ではなくロンドン(LONDON)レーベルと名を変えて販売していた。
日本もそれに倣っていたので年配の方には懐かしいロゴだろう。
(配給はキングレコード)

ステレオ開発も独自に行い、
1958年からSXLシリーズを高音質ステレオ録音レコードを表す商標「ffss方式」で発売。
このシリーズは、今もトップ・アイテムとして君臨している。
逆にアメリカで開発されたRCA方式は、その派手過ぎる音質ゆえ廃れてしまった。

デッカの名をさらに高めたのが、カルーショーとその録音チームが欧州各地を訪れ、
現地の演奏を最高レベルの機材で収録したことだ。
世界初となるイタリア・オペラ全集録音の連発は熱狂的なファンを増加させ、
さらには大手数社が獲得を競っていたカラヤンを
遂にウィーン・フィルとの共演に導き、アメリカ市場をも沸かせた。
(商魂たくましいカラヤンと利害が一致したのだろう)

また、無名だったゲオルグ・ショルティを指揮者に起用し、
ワーグナーの長編オペラ「ニーベルングの指環」の
世界初のスタジオ全曲録音を完成させたことも正に偉業といえる。
何度でも録り直すことで生まれる最高のパフォーマンスを
業界トップクラスの音響技師の高度な調整で仕上げ、
実演をも超えるレコード文化の発端を築いたのだ。

その後、1980年以降に起きた世界的業界再編の波を受け、
デッカはポリグラム社に買収される。
(2019年現在はユニバーサルの傘下)
しかし、デッカ・レーベルは今でもCD店の目立つ棚で輝き続けている。

今日、一部のアナログ愛好家が実演奏にさしたる興味を示さないのは、
デッカレーベルの生み出した、録音技術を用いた一種の
「理想的」な芸術文化に取り込まれてしまったからとも言える。

下記にデッカを代表する6枚のレコードを挙げる。

 K.ミュンヒンガー指揮シュトゥットガルト室内o.
バッハ:ブランデンブルク協奏曲4,6番

 H.クナッパーツブッシュ指揮バイロイト祝祭o.
M.メードル(s)W.ヴィントガッセン(t)G.ロンドン(bs-br) 他
ワーグナー:「パルジファル」(全曲)

 C.シューリヒト指揮ウィーン・フィルo.
ベートーヴェン:交響曲2番Op.36

E.クライバー指揮ウィーンフィルo./ウィーン国立歌劇場cho.
H.ギューデン,L.デラ・カーサ,S.ダンコ(s)C.シエピ(bs) 他
モーツァルト:フィガロの結婚(全曲)

 H.v.カラヤン指揮ウィーンフィルo. 
W.ボスコフスキー(vn)
R.シュトラウス:「ツァラトゥストラはこう語った」Op.30

A.フィストゥラーリ指揮パリ音楽院o.
チャイコフスキー:バレエ音楽「眠れる森の美女」Op.66


*本記事は雑誌「BIOCITY」に掲載された記事のWEB版です
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